第5回演奏会 作曲家・曲目紹介

Ⅰ ~現代日本気鋭の作曲家~

武満徹 (1930-1996)

世界のタケミツの名声を確立した「ノヴェンバー・ステップス」など、無調性の強い器楽作品からは難解な作曲家をイメージするが、アカペラ合唱曲集「うた」は比較的取り組みやすい曲集。 子供の頃を思い出して歌う「小さな空」もその中の一曲で多声による柔らかなハーモニーが美しい。

高嶋みどり (1954- )

東京都出身で東京芸術大学作曲科卒業。ピアノ伴奏つきで上級向けの難解な合唱曲が多かったが、最近はアカペラの平易な曲も増えている。 この曲は、静かな夕暮れ時の湖畔の風景を背景に清澄な恋の思い出が歌われている。 ハミングは爽やかな風のイメージであり、立体的な音像を狙った作品。

木下牧子 (1956- )

 出身地・経歴とも高嶋みどりとほぼ同じで、女流作曲家として現在人気を二分している。 芸大大学院時代に初めての混声合唱組曲「方舟」を発表して一躍注目を浴び、その後も多数の合唱作品を発表している。 「鴎」は自由へのあこがれを鳥に託した詩とメロディーの美しさが感動的。

信長貴富 (1971- )

上智大学文学部出身の経歴ながら全日本合唱コンクール課題曲の公募で佳作となって以来、国内でいま最も人気の高い作曲家の一人。 「雲」は混声合唱組曲「せんねんまんねん」の中のひとつであり、「人間は大宇宙の中の一点の存在に過ぎない」と謙虚な姿勢を訴えるまど・みちお氏の詩が心を打つ。



Ⅱ ~ルネッサンスの巨匠~

G. P. da Palestrina (パレストリーナ) (1525-1594)

 16世紀の最も有名なイタリアの教会音楽作曲家。100曲以上のミサ曲、200曲以上のモテットを残している。 「谷川慕いて」、「泉を求める鹿のごとく」などの邦題を持つこの曲は、日本でも最もよく歌われるモテットのひとつ。 「神よ、鹿が泉の水を慕うように、私の魂もあなたを慕っています」という詩と、おだやかに流れる旋律の美しさは永遠の名曲と呼ぶにふさわしい。

O. Lassus (ラッスス)(1532-1594)

 当時の音楽の中心地フランドル生まれで、パレストリーナと並ぶ大作曲家。 宗教曲と世俗曲併せておよそ2,000曲を残している。 「わが愛しのマドンナ」と呼ばれるこの曲は、彼の多数のマドリガーレの中でも「やまびこ」と並んで有名。 イタリアに駐留するドイツの傭兵が、品のないお国訛りの言葉で美しい娘を口説く歌。 “ドンドンドン・・・”は伴奏のギターや太鼓の音を描写したもの。

T. L. de Victoria (ヴィクトリア)(1548-1611)

 スペインで最も著名な教会音楽作曲家。 17歳の頃ローマで音楽を勉強し、パレストリーナの葬儀の行列にも参加したといわれる。 暗いハーモニーと旋律の美しさは日本人の心情に通じるものがある。 「道行く人よ、立ち止まって見なさい。この苦しみを」とキリストの十字架上の受難を歌うモテット。

L. Marenzio (マレンツィオ)(1553-1599)

 イタリアのマドリガーレ黄金期を支えた作曲家。 歌詞を生き生きと表現する旋律とリズムが特徴。 「西の風が好天をもたらし、つばめやうぐいすがさえずり、空気も水も大地も動物も愛に満ちている。 それなのに、天国への鍵を彼女に持ち去られた私には、心の奥底からのため息しか戻ってこない。」 後半のダイナミックな曲想変化が、彼の詩情への鋭い感覚をよく表現している。


Ⅲ ~古都幻想~

女声合唱組曲「古都幻想」より
 「蝉しぐれ」・「鐘の音」・「由比ガ浜幻想」     作詞 武鹿悦子 作曲 岩河三郎
   (「古都幻想」初演2001年12月16日・新座市少年少女合唱団・カルザスホール)

Ⅳ ~近現代欧州の達人~

F. Mendelssohn (メンデルスゾーン) (1809-1847)

 ドイツロマン派の巨匠。交響曲などの他にもたくさんの合唱曲があることは意外に知られていない。 「空が青く輝けば、緑の木々の中でさわやかな気分が目を覚ます」と歌い始めるこの「緑の中で」は、軽やかな9/8拍子のリズムが、思わず踊りだしたくなるような心地よさを誘う小品。

R. A. Schumann (シューマン) (1810-1856)

 同じくロマン派の大家であり、歌曲やピアノ曲の他「流浪の民」など有名な合唱曲が残っている。 「月かげ浴びし花園に 青きかげ二つさまよい出でて ・・・」ドラマティックな和音変化が美しい。

J. Sibelius (シベリウス) (1865-1957)

 フィンランドの生んだ最大の作曲家。同名の交響曲で有名だが、他にも多くの優れた合唱曲がある。 「おお、立ち上がれフィンランド、既に夜は明けぬ、おおわが祖国よ」と誇り高く歌われるこの『フィンランディア讃歌』は、第2のフィンランド国歌として国民に、そして世界中で愛唱されている。

T. Kuula(クーラ) (1883-1918)

 フィンランドがロシアから独立した翌年の内戦で銃弾に倒れ34歳の短い生涯を終えた。 シベリウスに作曲を学び、14年間に約70曲の合唱曲を残している。 「わが子をトゥオネラに」は、娘アウネが生後数ヶ月で他界した時、民俗詩カンテレタル「死の国トゥオネラへ娘を送る」の題材を元に作曲された。 

J. Tavener (タヴナー) (1944- )

 現代イギリスを代表する作曲家。 「仔羊よ、誰がお前を作ったの?・・・仔羊よ、神様がお前を祝福してくださるように!」意外な調性変化と調和和音をうまく対比させ、異次元の空間を創り出している。

J. Busto(ブスト) (1949- )

スペイン・オンダリビアの生まれで現在世界各地で活躍中。 全日本合唱コンクールの審査員を務めるなど日本にもファンが多い。 「Ave Maria 」は数多くの合唱団で歌われるハーモニーの美しい小品。